江戸川病院

社会福祉法人 仁生社

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診療科・部門|神経内科

2024-10-29更新

アルツハイマー病の治療は長らく対症療法薬しかありませんでした。対症療法とは症状を緩和するだけの治療であり、病気の進行を抑えることはできません。発熱に熱冷ましを用いるような治療です。アルツハイマー病は慢性進行性の疾患であり、物忘れから始まり、失語、失行、失認、遂行機能障害を呈するようになり、最後には何も出来ない、何ら意思表示の出来ない状態となります。

これまで、この経過を止めることは出来ませんでしたが、このアルツハイマー病の進行を初めて抑える可能性がある治療法が、2023年夏に米国で、2023年末に日本で認可となりました。アルツハイマー病の進行は、ベータ・アミロイドタンパク(Aß)の蓄積、それによる老人斑の形成、リン酸化タウの蓄積、それによる神経原線維変化の形成、最後に神経シナプスの減少、神経細胞死という順番で進行することが分かっています。

今回の治療法は、その最初の段階である蓄積しているAβを排除する薬剤の投与です。こうした病気の進行を抑える薬剤は疾患修飾薬と言われ、その薬剤が「レケンビ®」(一般名:レカネマブ)です。

当院でもその加療が可能となっています。対象となる方は ”アルツハイマー病による” 軽度認知障害(MCI)の方と軽度認知症の方です。無症状の方、中等度以上のアルツハイマー病の方は投与対象外となります。 ※アルツハイマー病以外の認知症は対象外です。

(実際に投与できるかどうかは、診察・検査を受けていただいた上での判断となります。「レケンビ®」についてのご相談は、メディカルプラザ江戸川 神経内科 新海医師 水PM(完全予約制)にて承ります。

地域連携室 フリーダイヤル0120-518120(月~金 8:30~17:00・土8:30~12:30)へお電話いただき、予約をお取りください。

レカネマブについて少し詳しくお話します。このレカネマブはAßの集合体であるプロトフィブリルに対する抗体で、その抗体を投与することで、人体に備わっている免疫の力でAßの集合体=プロトフィブリルを排除します。

Aßは約40個のアミノ酸により形成されているペプチド(タンパク質の小さなもの)であり、40個のアミノ酸でできたAß40, 42個のアミノ酸でできたAß42を区別できる測定系が1990年前半に開発され、その後の1990年代には、人間の脳でどのように蓄積しているか、盛んに基礎的な研究が行われました。


当時、当院の新海が東京大学大学院神経病理学に院生として在籍し、井原康夫教授(当時)のご指導のもとに、Aßがどのように人体の脳に蓄積していったかデータを出しました。そのデータの一つが下の図です。細かい説明が専門的になりすぎるため省きますが、左側の枠はアルツハイマー病と診断されることなく亡くなられた方々(事故死などの外因死を含む)で、右側の枠はアルツハイマー病(AD)の患者さんです。

アルツハイマー病と診断されなかった方々の横軸は年齢(歳代)、縦軸は脳から測定されたAßの量です。このAßの量は対数表示になっていることにご注目ください。この図から、アルツハイマー病と診断される前から、50歳代から70歳代にかけてAßが急速に蓄積されることがわかると思います。

(この図は当院の新海の学位論文「アミロイドß蛋白の髄膜および脳実質における蓄積」の一部です。学位論文には著作権があります。学位論文には著作権が放棄されたものがありますが、この学位論文の著作権は放棄されていません。引用するには著作権者の許諾が必要です)


(文責: 江戸川病院 神経内科 医長 新海泰久)

パーキンソン病の治療薬は20世紀末から徐々に新しい薬が増えています。パーキンソン病と診断された患者さんは20世紀半ばには診断されたあと、その予後は数年で寝たきりとなり、予後5年程度とされていました。現行の薬剤は、残念ながら、どの薬も対症療法の域を出ませんが、薬を組み合わせ用いることで、近年では天寿に近い歳まで生きられるとされています。

副作用を考慮して,作用機序が異なる薬剤を組み合わせて加療を行います。

昔は,パーキンソン病を発病すると,数年で寝たきり状態となっていました。現在,未だに治癒することはできませんが,開発されてきた薬を用いることで,身体機能を維持できる期間が長くなっています。診断後10年の患者さんの7、8割が,身の回りのことをできる状態であると言われています早期に治療を開始することや、リハビリを続けることが重要です。


(文責: 江戸川病院 神経内科 医長 新海泰久)

脳梗塞では,超急性期の加療が近年変わってきました。血栓溶解療法が行われるようになり、最初は発症時間から3時間以内の施行とされていましたが、のちに、4時間半以内に行うことと改められました。しかし、脳梗塞は,発症時に疼痛を伴わないので、1日あるいは数日間、様子をみてから受診することが珍しくありません。

欧米では“Time is brain“というキャンペーンが行われて、それでも時間的制約のため超急性期に血栓溶解療法を行うことは難しいようです。日本でも脳梗塞の早期受診を促すキャンペーンや救急隊の努力も行われていますが早期に受診する人はなかなか増えていません。

当院でも超急性期の血栓溶解療法を行っていますが、来院時の時間や禁忌などの制限があるため施行できないことが少なくありません。その時間の制限や禁忌を無視すると,出血合併症などの不都合が出現する可能性が高くなります。

脳梗塞の種類によって、症状、後遺症の程度、重症度は、様々な違いがあります。これは梗塞の起こる部位や、範囲によっても異なりますが、早期発見、早期治療・リハビリを行うことによって、後遺症や、社会復帰までの時間が変わってきます片側の手足や顔の麻痺、半身の脱力、片側の手足にしびれが出る、触った時の感覚が鈍くなる、言葉が出にくい、呂律が回らなくなったなど、もしこのような症状が出た場合は(症状が出て、しばらく後に症状が消失しても)、直ちに受診をしてください

脳梗塞の再発予防では病型によって用いる薬剤が異なります。脳梗塞の病型にはアテローム血栓性、ラクナ梗塞と心原性があります。

近年、心原性では用いる抗凝固薬の選択肢が増えてきました。心原性の再発予防に用いる薬剤は抗凝固薬ですが、数年前まではワルファリンのみしかありませんでした。ワルファリンは食事内容の制限があり,併用薬の注意も必要でした。

そのような注意や制限が少ない新規抗凝固薬がここ1,2年で増えてきました。またそれだけではなく,新規抗凝固薬では,一定の条件の人で再発率がワルファリンより低くなると言われています。また,一般に抗凝固薬は出血合併症がありますが,新規抗凝固薬では重篤な後遺症を残す頭蓋内出血の発症率が少ないと言われています。残念ながら,この新規抗凝固薬はある程度以上の腎機能障害があると使えず,あるいは,対象疾患の制限があります。

アテローム血栓性、ラクナ梗塞には抗血小板薬が用いられます。抗凝固薬と同じく出血合併症の可能性が無ではありません。メリットとデメリットを比較して,治療を考えていきます。

さらに高血圧,糖尿病,脂質異常により,再発率が高くなりますので,こうした危険因子となりうる疾患の加療は重要となります。


(文責: 江戸川病院 神経内科 医長 新海泰久)

神経免疫疾患とされる一群の疾患があります。

(重症筋無力症、多発性硬化症、視神経脊髄炎、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発性神経炎、自己免疫性脳炎等)

症状の出る場所は,脳,脊髄,末梢神経,神経筋接合部,筋肉とすべてに及びます。

疾患により,治療効果の違いがあるため,ステロイドホルモン剤,免疫グロブリン大量療法,血漿交換療法,免疫抑制剤による治療を,単独であるいは必要により組み合わせて行います。最近では疾患修飾療法が可能となり、予後は比較的良好となっています。疾患の診断,評価,治療法の選定は,専門外では困難と思います。


(文責: 江戸川病院 神経内科 医長 新海泰久)

当院では,睡眠時無呼吸症候群の診断,加療を行っています。

簡易睡眠検査で診断がつくほど比較的重症な状態から,入院精査しないと診断がつかない程度の相対的に軽症の状態まで程度はまちまちです。持続陽圧呼吸療法と呼ばれる治療を行うことで,症状が改善されます。さらに,CPAPを開始して、治療条件,およびその効果を評価するため、1回入院することが必要となります。


(文責: 江戸川病院 神経内科 医長 新海泰久)