社会福祉法人 仁生社
江戸川病院
脳梗塞では,超急性期の加療が近年変わってきました。血栓溶解療法が行われるようになり、最初は発症時間から3時間以内の施行とされていましたが、のちに、4時間半以内に行うことと改められました。しかし、脳梗塞は,発症時に疼痛を伴わないので、1日あるいは数日間、様子をみてから受診することが珍しくありません。
欧米では“Time is brain“というキャンペーンが行われて、それでも時間的制約のため超急性期に血栓溶解療法を行うことは難しいようです。日本でも脳梗塞の早期受診を促すキャンペーンや救急隊の努力も行われていますが早期に受診する人はなかなか増えていません。
当院でも超急性期の血栓溶解療法を行っていますが、来院時の時間や禁忌などの制限があるため施行できないことが少なくありません。その時間の制限や禁忌を無視すると,出血合併症などの不都合が出現する可能性が高くなります。
脳梗塞の種類によって、症状、後遺症の程度、重症度は、様々な違いがあります。これは梗塞の起こる部位や、範囲によっても異なりますが、早期発見、早期治療・リハビリを行うことによって、後遺症や、社会復帰までの時間が変わってきます。片側の手足や顔の麻痺、半身の脱力、片側の手足にしびれが出る、触った時の感覚が鈍くなる、言葉が出にくい、呂律が回らなくなったなど、もしこのような症状が出た場合は(症状が出て、しばらく後に症状が消失しても)、直ちに受診をしてください。
脳梗塞の再発予防では病型によって用いる薬剤が異なります。脳梗塞の病型にはアテローム血栓性、ラクナ梗塞と心原性があります。
近年、心原性では用いる抗凝固薬の選択肢が増えてきました。心原性の再発予防に用いる薬剤は抗凝固薬ですが、数年前まではワルファリンのみしかありませんでした。ワルファリンは食事内容の制限があり,併用薬の注意も必要でした。
そのような注意や制限が少ない新規抗凝固薬がここ1,2年で増えてきました。またそれだけではなく,新規抗凝固薬では,一定の条件の人で再発率がワルファリンより低くなると言われています。また,一般に抗凝固薬は出血合併症がありますが,新規抗凝固薬では重篤な後遺症を残す頭蓋内出血の発症率が少ないと言われています。残念ながら,この新規抗凝固薬はある程度以上の腎機能障害があると使えず,あるいは,対象疾患の制限があります。
アテローム血栓性、ラクナ梗塞には抗血小板薬が用いられます。抗凝固薬と同じく出血合併症の可能性が無ではありません。メリットとデメリットを比較して,治療を考えていきます。
さらに高血圧,糖尿病,脂質異常により,再発率が高くなりますので,こうした危険因子となりうる疾患の加療は重要となります。
(文責: 江戸川病院 神経内科 医長 新海泰久)