社会福祉法人 仁生社
江戸川病院
2024-10-29更新
呼吸器外科 渡邉健一
呼吸器外科は、肺がんやその他の肺腫瘍、胸膜腫瘍、縦隔腫瘍、気胸などの検査、治療を行う診療科です。肺癌の治療は、腫瘍内科、放射線科、呼吸器外科が連携して行う必要があります。当院で呼吸器外科の診療を開始いたしましたので、今まで以上に近隣、江戸川区、葛飾区にお住いの方たちのため最良の治療を提供できるよう尽力する所存です。手術などの診療につきましては大学病院との連携のもと行ってまいります。特に気胸については、現在も不明な点が多いため各施設で様々なことが行われており、先生によって意見のちがいが多い疾患です。そのため混乱している患者さんが多いのが実情と思います。当院での肺癌の手術、気胸診療について述べたいと思います。
※術後再発を予防する方法
続発性気胸肺気腫 COPD
間質性肺炎
胸腔子宮膜症気胸(月経随伴気胸)
リンパ脈管筋腫症
胸膜癒着療法について方法
胸膜擦過 胸膜切除
ミノマイシン
ピシバニール
タルク
自己血
50%ブドウ糖
渡邉健一 胸腔鏡手術後におけるサージセル使用と神経痛出現の関連について 第198 回
肺 癌 学 会 関 東 支 部 地 方 会 2023 年 3 月 9 日 東 京
https://procomu.jp/haigan195/pdf/haigan195_abstract_0302.pdf
渡邉健一 気胸手術で使用されるサージセルが引き起こしうる術後疼痛について 第183 回
呼 吸 器 学 会 関 東 地 方 会 2023 年 2 月 25 日 東 京
https://www.jrs.or.jp/meeting/kanto/file/230228_253kaikigo.pdf
渡邉健一 再生酸化セルロースが胸腔鏡手術後の慢性疼痛に及ぼす影響について 第184回
呼 吸 器 内 視 鏡 学 会 関 東 支 部 会 2023 年 3 月 4 日 東 京
https://procomu.jp/jsrekanto184/pdf/jsrekanto184_program.pdf
渡邉 健一 自然気胸に対しPolyglycolic acid sheet(PGA)による胸膜補強施行後の再発症例の胸腔内癒着剥離について第26 回日本気胸・嚢胞性肺疾患学会総会 2022 年9 月3 日 東京
渡邉 健一 子宮内膜症の自然史についての考察―胸腔腔子宮内膜症性気胸の横隔膜病変 の病理学的検討からー 第43 回日本エンドメトリオーシス学会 2022 年 1月 22日 東京
渡邉 健一 第74 回日本胸部外科学会総会 難治性気胸の手術症例における術前の胸腔造 影検査の意義について 2021 年10 月31 日 東京
渡邉 健一 胸腔子宮内膜症性気胸の横隔膜に子宮内膜腺組織と間質細胞を認める5 例 について病理学的考察 第25 回日本気胸・嚢胞性肺疾患学会総会 2021 年9 月17 日 web開催
渡邉健一 胸腔子宮内膜症性気胸における横隔膜の裂孔様病変の、発生機序についての 病理学的考察 第38 回日本呼吸器外科学会総会 2021 年5 月20 日 長崎(ハイブリッド開催)
Ken-ichi Watanabe, Nobuhiro Imamura, Jotaro Yusa et al. Pleurography (thoracography) for
pleural fistulas: A case series: JTCVS Techniques 2021 7 285-91
Pleurography (thoracography) for pleural fistulas: A case series - ScienceDirect
原発性自然気胸
背が高く痩せている20歳前後の男性に多い疾患であることがよく知られています。肺の一部に穴が開いてしまい、肺が萎み、胸の痛みや呼吸苦を来します。肺の一部が弱くなってしまい、その部分が破れて空気漏れがおこります。肺の弱い部分はブラ、ブレブと呼ばれておりますが、発生機序が不明です。弱いところが残っていると再発しやすいことが見込まれますので、外科的に切除を検討します。以前は、肺の一部を切除し縫合するために大きな創で開胸して肺の縫合を行っておりましたが、1992年に自動吻合器が使用できるようになり、小さい傷でカメラを用いて行う胸腔鏡手術が普及しました。しかし、開胸手術に比べて胸腔鏡手術は再発が多いことが分かっております[1]。そこで再発を予防するために以下の方法が行われております。
続発性気胸
肺癌、肺炎、肺気腫、胸腔子宮内膜症、リンパ脈管筋腫症などが原因で、肺や胸膜が破壊され空気漏れを起こしてしまった場合を続発性気胸といいます。
胸膜癒着療法について
胸腔内に炎症を起こさせて、肺と胸膜を癒着させる治療です。炎症を起こさせるために機械的な刺激を加える方法と、強い酸や死菌、タルクによる炎症を起こさせる方法、自己血を用いる方法、50%高濃度ブドウ糖を用いる方法があります。
概要
気管や気管支、肺胞(肺の中を通る気管支の末端にある小さな袋状の組織)の細胞に起きるがんです。周囲の組織に浸潤しながら増殖していき、離れた臓器に転移します。特に、脳、骨、肝臓、副腎、リンパ節などに転移しやすいことが分かっております。2021年の統計でも、がんによる死亡者の数でも肺がんが一番多いのが現状です。肺の組織から発症した場合は原発性肺がんと呼び、他の臓器から発生して肺に転移したがんを転移性肺がんと呼びます。肺がんは顕微鏡で細胞を観察し、病理学的にタイプ(病理検査の組織型)分類されますが、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん 小細胞肺がんが主な組織型になります。小細胞肺癌はほかの組織型と比べ性質が異なるため手術適応や使用する抗がん剤など、治療方針が異なります。
原因
肺がん発生の原因はすべて解明されているわけではありません、小細胞肺がん、扁平上皮がんの発生にはタバコが関与しているといわれておりますが、喫煙者は非喫煙者に比べると発症率が高いということで、タバコだけが原因で発生するものではありません。しかし喫煙者は、本数を多く吸う人ほど肺がんになりやすく、また肺がんで死亡する率も高まるというデータもありますし、タバコを吸い始めた年齢が低いほど、さらに危険性が高まるという統計結果もあります。加えて、受動喫煙についても影響の大きさが問題視されており、たとえ非喫煙者であっても、周囲の人がタバコを吸う環境にいる場合は注意が必要とされております。タバコで発生することが分かっている慢性閉閉塞性肺疾患(COPD)は肺がんになりやすくなるという報告もあります。腺がんという組織型の肺がんは、タバコを吸わない人で多くみられます。進行が遅いタイプもあり、小細胞肺がんや扁平上皮がんと比較すると根治できる人が多いと考えられています。アスベスト(石綿)やクロム、ラドンなどの有害物質に長期間暴露されたりすることも、肺がんに罹患しやすくなるというデータや、結核や慢性閉塞性肺疾患といった肺の病気にかかることも肺がんの原因となりうるとする報告もありあます。この他に大気汚染も原因として挙げられることがありますが、因果関係はまだはっきりとはしておりません。
症状
肺がんのタイプ組織型や、発生した部位によっても違いますが、基本的に初期段階では目立った症状が出ないことが多いです。症状が出てから病院に受診した人は進行していることが多いのが現状です。このため、毎年の定期健診での胸部エックス線検査や胸部CT検査が重要と考えます。ぜひ毎年の検診を受けていただきたいというのが我々肺癌の治療に従事する者からの希望です。肺門部といって気管あるいはその近傍に発生すると、呼吸時に喉が「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と鳴る喘鳴(ぜんめい)が発生しやすい可能性はありますが、咳やたん、発熱、倦怠感、胸の痛み、血の混じった痰が出るなどの症状が出るのはかなり進行してしまった場合であることが多いと思われます。また、こうした症状は他の呼吸器系の疾患にも起きることがありますが、長期間症状が治まらない場合は医療機関を受診して調べてもらうことをお勧めします。
検査・診断
他のがんと同様、進行度分類(ステージ分類)があり、組織型と組み合わせて治療方針を決定します。また、腫瘍細胞の遺伝子検査を行い、分子標的治療や免疫チェックポイント阻害剤の適応があるか調べます。
治療
肺がんの治療は近年、著しく進化しております。分子標的治療や免疫チェックポイント阻害剤の登場をはじめ、放射線治療の機器の進歩も治療成績の改善に大きく寄与しています。また、現在もよりよい治療を追求するため様々な臨床試験が行われています。前述のように組織型、ステージ分類の診断により治療方針を決定いたしますが、組織型別あるいは遺伝子変異の有無などにより治療方針が細分化されたものがガイドラインで推奨されておりますので、それを基に治療を計画いたします。以前は手術ができない程進行して見つかった肺がんは「手遅れ」だという表現が用いられるほど治療成績が良くありませんでしたが、現在は「手遅れ」という状態はないといっても過言ではありません。さらに治療も副作用について研究されておりますので以前ほど辛いものではなくなってきています。また、ご高齢のかたの場合は、何もせず症状が出た場合に治療していく(緩和治療、ベストサポーティブケア)という選択肢も重視される場合があります。がんが体の中にあっても症状がなければ問題ないわけです。無理にがんを退治しようとすると、具合が悪くなる場合もありますので、呼吸器内科、放射線治療科の医師と十分に話し合って方針を決めることが大切です。
手術
検診の重要性
肺がんの検査、治療について述べてきましたが、最も強調したいのは定期的に健康診断を受けてほしいということです。現在でも6割程度の方が進行した状態で診断され手術治療や放射線治療が選択しにくいのが現状です。胸部X線写真のみでは発見できる肺癌が限られております。低線量のCT検査での検診の有用性が報告されておりますが、肺がん検診として施行している自治体は少ないです。特に60歳から65歳を迎え、第2の人生を始められた方たちに多いので人間ドックなどで1年に一度胸部CT検査を受けるようにお願いしたいです。今や肺がんの治療は、以前ほど辛い治療ではなく、恐ろしいものではなくなってきていると思います。怖がらず検診を受けてほしいというのが肺がん治療に携わっている医師の願いです。