社会福祉法人 仁生社
江戸川病院
突然脈拍が速くなり、しばらく続いたあとに突然止まる不整脈のことです。
これらの不整脈は、一般にリエントリー(回帰興奮あるいは回帰収縮)と呼ばれる電気の流れによって起こります。
狭義の発作性上室性頻拍には、WPW症候群の房室回帰性頻拍、房室結節リエントリー性頻拍、心房頻拍の3種類が含まれます。
原因のお話をする前に、そもそもの正常な心臓の動きについて説明しなければなりませんので、電気生理検査の頁を参照してください。
発作性上室頻拍とは、正常な電気刺激の通り道以外に別の通り道が存在し、その回路を電気刺激が通ることで脈が早くなるのです。
この別の回路を電気が通りグルグル刺激が回り続けることをリエントリーと呼びます。
「上室」=「上の部屋」。
つまり発作性上室性頻拍症とは、発作的に発症する脈の速くなる不整脈で、リエントリー等の不整脈の回路が心室より心房側に存在する、という意味です。
WPW症候群に生じる房室回帰性頻拍
心室と心房と結ぶ副伝導路(Kent束)が存在する「WPW症候群」と呼ばれる疾患があります。
副伝導路の部位は様々ですが、電気刺激が房室結節を順行し、副伝導路を心室側から心房側へ伝わる正方向性房室回帰性頻拍と、逆に、房室結節を心室側から心房側へ逆行して副伝導路を心房側から心室側へ伝わる逆方向性房室回帰性頻拍とがあります。
房室回帰性頻拍との95%は正方向性で、逆方向性は5%程度です。
房室結節リエントリー性頻拍
房室結節に侵入する正常な伝導路(速伝導路)とは別に、刺激の伝導が遅い副伝導路(遅伝導路)が存在する場合、遅伝導路を刺激が通り速伝導路を逆行してリエントリーを形成する通常型房室結節リエントリー性頻拍と、速伝導路を刺激が通り遅伝導路を逆行してリエントリーを形成する稀有型房室結節リエントリー性頻拍とがあります。
心房頻拍
上記の二つとは別に、心房内にリエントリー回路が存在し頻拍症を発症する疾患です。
この頻拍はリエントリー以外にも自動能興奮や撃発活動といった機序があり、治療が困難な場合があります。
発作性上室性頻拍の症状は、突然始まり、突然止まる動悸として自覚されます。
頻拍が生じていない時はまったく正常で、前兆がありません。
したがって、患者様本人が「何時何分に動悸が始まった」といった具合に、症状の始まった時点がはっきりと自覚できるのが特徴です。
発作時の心電図で発作性上室性頻拍症と診断できます。
発作時の心電図がない場合は24時間の心電図で診断することがあります。
いずれの場合も、検査中に発作が起こってないと診断できません。そこで、発作時の心電図はないですが、症状が非常に疑わしい場合は電気生理検査を施行することがあります。
これは足の付け根などからカテーテルと呼ばれる電極を心臓に挿入し、電気の通り道を調べるというものです。
この検査によって、何が原因の頻拍症なのかを診断することができ、そのままカテーテル治療を行うことができます。
薬物療法
なにが原因の頻拍にせよ、脈が心室まで伝わるまでに必ず房室結節を通ることになりますので、房室結節の伝導を抑える薬が適応となってきます。
主にはβ遮断薬とCa拮抗薬と呼ばれるものです。
これらを内服することで、頻拍が起こっても脈が速くなることをある程度防ぐことができます。
また、頻拍そのものを予防するために抗不整脈薬と呼ばれる薬を内服することがありますが、予防効果としては満足のいく結果を残せてないのが現状です。
高周波カテーテルアブレーション
高周波カテーテルアブレーションとは、頻拍が関わる組織を焼灼して頻拍を根治させる治療法です。
前述した電気生理検査と時と同じようにカテーテルを心臓内に挿入し、リエントリー回路を見つけたらその部位を高周波で焼灼します。
一度焼灼された組織は瘢痕化し電気が流れなくなりますので、頻拍は起こりえなくなります。
WPW症候群の房室回帰性頻拍であれば副伝導路(Kent束)を、房室結節リエントリー性頻拍では遅伝導路をアブレーションの標的にします。
この2疾患に関しては、治療後の再発防止率が90%を超えており、なおかつ一度治療してしまえば薬の内服中止も可能なことから第一選択の治療と認識されております。
心房頻拍は上記2疾患と違い、リエントリーの回路が単純ではなく、また前述のように複数の機序をもっていることから通常のカテーテルアブレーションでは治療困難な場合があります。
その場合はCARTO・Ensiteといった特殊なシステムを用いての治療となりますが、それでも上記疾患よりも治療成績が落ちることから、薬物療法を併用することがあります。
いずれの治療にせよ不整脈の治療は専門的な知識を必要とする場合が多いので、もし発作性上室性頻拍症が疑われれば、循環器の専門病院を受診することをお勧めします。