社会福祉法人 仁生社
江戸川病院
虚血性心疾患と呼ばれる病気の一種で、典型的には胸が痛くなったり、締め付けられるような症状の出る病気です。
心臓を栄養する冠動脈が動脈硬化により狭くなり、心臓に血流が十分に供給されなくなることが原因です。
動脈硬化の原因は様々なものが存在しますが、一般にいう成人病・生活習慣病が原因の多くを占めます。
最近マスコミでも注目を集めているメタボリック症候群もこれに当ります。
具体的には、高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満です。その他喫煙・高尿酸血症・慢性腎不全なども動脈硬化の原因となっています。
胸の痛みや不快感が出現します。
また胸だけではなく、肩や左上肢のしびれ、首筋や歯茎の浮くような感じなど、非典型的な症状が存在しますが、基本的には5~10分程度で治まる発作性の症状が特徴です。
心臓に十分に栄養が供給されなくなったときに症状が出現するわけですから、階段を上ったり、走ったりして心臓に負担がかかるときに症状が出現しやすくなります。
このように、労作時のみに症状が出現する場合を安定狭心症と呼びます。
しかし、中には労作時のみならず、安静時にも上記の症状が出現する場合があり、これを不安定狭心症と呼びます。
この場合は冠動脈が非常に狭くなっており、詰まりかけの状態が予測され緊急治療が必要となりますので、速やかに医療機関を受診してください。
また、動脈硬化とはまったく関係なく、血管の痙攣が原因で胸痛が出現する異型狭心症(冠攣縮性狭心症)と呼ばれる病気があります。
血管の痙攣は朝方に発生することが多く、また喫煙で高率に誘発されます。
朝方に症状がでることがほとんどで喫煙しているなら異型狭心症と診断される可能性が高くなります。
発作時であれば心電図にて診断できることがありますが、ほとんどの場合は非発作時に医療機関を受診しますので、心電図だけでは十分ではありません。
血液検査や超音波検査を実施しますがやはり診断には不十分です。
ベルトコンベアーの上を心電図をつけながらジョギングして、心臓に負担がかかったときに心電図が変化するのかで診断するトレッドミル検査があります。
このときに心筋シンチグラフィー検査を行いこともあり、この検査により、安定狭心症ならばある程度は診断可能でありますが、やはり診断能力は十分ではなく、また、不安定狭心症の場合はこのように運動負荷を行うこと自体が非常に危険なことであり、結局狭心症の診断としてもっとも信頼できるのはカテーテル検査でありました。
カテーテル検査とは別頁でも説明しましたが、手首などの動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、冠動脈に造影剤を流してレントゲンを取る検査です。
これにより100%診断でき、かつ病変の部位や狭窄度なども特定できるために、狭心症の疑いが認められた場合はカテーテル検査を行ってきました。
しかし、2006年から64列MDCTが当院で導入されました。
このCTは従来のCTと比較して解像度が非常に高く狭心症の診断率はおよそ80%で、非侵襲的な検査方法の中では非常に高い診断率を誇るため、従来ならカテーテル検査を行ってきた患者様でも、まずはCTで検査して、それでも非常に疑わしい場合のみカテーテル検査を行う、といった流れになってきております。
当院の64列MDCT実施数は全国TOP3の数であり、安全性・正確性においても自信をもって御勧めすることができます。
最近では128列、256列MDCTが開発されており、当院でも導入を検討している最中です。
薬物療法
まずは狭くなった血管が完全に詰まってしまうことを防ぐ目的で血液をさらさらにする薬が第一に処方されます。
バファリン・バイアスピリンといった薬です。
また、もしカテーテル治療の適応となった場合は、さらに1剤(プラビックスもしくはパナルジン)が追加されます。
また、血管拡張薬を処方する場合もありますが、基本的には動脈硬化によって狭くなった血管が十分に広がることは少なく、カテーテル治療によって物理的に広げるほうが効果的です。
ただし、異型狭心症の場合は血管拡張薬で著明に改善し、薬物にてほとんど発作が起こらなくなります。
その他の薬物療法としては前述のように高血圧・糖尿病・高脂血症になどに対する薬物療法も非常に重要です。
血管に対する治療だけではその後の再発予防になりませんので、生活習慣病に対するしっかりとしたフォローが必要となってきます。
運動・食事療法
これは生活習慣病の治療としては薬物療法と同程度、もしくはそれ以上に重要な治療法です。
心疾患を持病として持っていては運動は怖くてできないと考えてしまいがちですが、実は心疾患も運動療法によって改善し、その後の予防効果も認められているのです。もちろんなんでもがむしゃらに運動すればいいという訳ではなく、患者様個人に合わせた運動療法が大事です。
詳しくは心臓リハビリテーション(別頁)を参照してください。
カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術)
別頁に詳細を記載しておりますが、検査のときとほぼ同様にカテーテルを挿入し、狭窄部位を物理的にバルーンで広げて、ステントと呼ばれる金属の網で血管を補強するという治療です。
現在当院では狭心症の治療としてほぼ100%に近い患者様にステント治療を行っております。
カテーテル治療は決して万能ではなく、患者様の病変の状態にもよりますが、概ね5~10%の確率で再狭窄をきたします。再狭窄時期としては8~12ヶ月の間が多いので、治療後はたとえ症状なくとも、1年後に必ず再検査をしていただくように御話しております。
外科的手術(冠動脈バイパス手術)
詰まりかかってる、もしくは詰まっている血管の末梢側に、新しい血管をつないで血流を確保するという手術です。
カテーテル治療と違い全身麻酔をかけて胸を開いての手術ですから、合併症という面でややカテーテル治療よりも危険性が高くなります。
ただ、以前は心臓の手術は全例、人工心肺を装着し、心臓の動きを完全に止めてから手術を行っていました。
当然心臓を止めるわけですから血圧も低下しやすく、また脳梗塞の術中の発症などが問題となることが多かったのですが、現在では心臓を動かしたまま手術をする、オフポンプバイバス術が主流となりつつあり、当院ではバイパス術に関して90%程度はオフポンプ手術を施行しております。
これにより合併症のリスクは以前と比較して減少しております。
バイパス手術を行うべき患者様としては、カテーテル治療が困難な病変や、3本の冠動脈が3本とも詰まりかけの病変であったり、一番根元の血管が詰まりかかっている病変、ステント治療を何回も施しても再狭窄をきたしてしまうような病変などです。
もちろん治療法の選択は患者様の意思が第一ですので、上記の条件を満たす必要はありません。
バイパス手術の利点はカテーテル治療と違い、再狭窄の問題がありませんので、手術さえちゃんと成功すれば、再治療の可能性が明らかにカテーテル治療よりも低いことにあります。